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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)2291号 判決

昭和五一年(ネ)第二六七三号事件控訴人

同年(ネ)第二二九一号事件被控訴人

(「第一審原告」と表示する。)

県北砕石株式会社

右代表者

根本照夫

右訴訟代理人

赤津三郎

昭和五一年(ネ)第二二九一号事件控訴人

同年(ネ)第二六七三号事件被控訴人

(「第一審被告」と表示する。)

田仲金属工業株式会社

右代表者

田仲稔

右訴訟代理人

飯田淳正

主文

一  原判決主文第一・二審を次のとおり変更する。

(1)  第一審被告は第一審原告に対し金六九万六六〇〇円及びこれに対する昭和四九年七月一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(2)  第一審原告のその余の請求を棄却する。

二  第一審原告の控訴を棄却する。

三  訴訟費用は第一・二審を通じてこれを三分し、その二を第一審原告、その余を第一審被告の各負担とする。

事実

第一審原告は「原判決中第一審原告敗訴の部分を取り消す。第一審被告は第一審原告に対し金七七万〇四三〇円及びこれに対する昭和四九年七月一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。第一審被告の控訴を棄却する。訴訟費用は第一・二審とも第一審被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、第一審被告は「原判決中第一審被告敗訴の部分を取り消す。第一審原告の請求を棄却する。第一審原告の控訴を棄却する。訴訟費用は第一・二審とも第一審原告の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上・法律上の主張及び証拠の提出・援用・認否は、当事者の主張中請求原因第二項に関する部分(原判決二枚目裏四行目から三枚目表一行目まで及び四枚目表一一行目)を削除し、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。

一  第一審被告の主張

(1)  第二審被告会社では、昭和四九年五月一日から同五日の間に水戸市にある堀工業から常北工場に機械等諸設備の移転を行い、同月六日から従業員が常北工場に勤務し、工場の操業が開始された。訴外豊島宗次は、第一審被告会社の資金をもつて砕石を買い入れ、建家の下や道路に敷いてきたのであるが、道路に砕石を敷くにあたつては、砕石を置くや直ぐにブルドーザーでこれを均らして固め、その後降雨等により砕石が沈み土が浮きあがつてくると道路の使用状態が悪化するため再び砕石を敷く作業を行い、この繰返しによつて道路の機能を形成し、強化してきたものである。豊島が同年六月半ばに倒産した当時、道路の舗装工事は残つていたが、道路は、前記工場設備の移転のほか、操業に伴う使用に堪え、道路としての機能を具備していたもので、第一審原告会社が道路から砕石を取り出す場合には、道路としての機能が破壊されることは明らかであつた。

右のような状況下においては、遅くとも豊島の工事中止と同時に(あるいは、豊島が砕石を道路に敷くと同時に、また、第一審被告会社の操業開始後は搬入と同時に)、豊島に対する請負代金を完済していた第一審被告会社が砕石の所有権を取得したものというべきである。

(2)  第一審被告会社は、豊島の倒産時には、投入された砕石により機能を具備した道路を利用していたのであり、その道路の利用は、第一審被告会社と豊島との間の契約によつてもたらされた価値の実現であるから、第一審被告会社は道路をそのまま利用しうる権利を取得していたものというべきであつて、第一審原告会社による道路の破壊を受忍すべき筋合いはなく、民法五四五条一項但書の適用により、第一審原告会社は解除権の行使によつて右第一審被告会社の権利を害することはできない。

二  第一審原告の主張

(1)  第一審原告会社の搬入した砕石は全部回収可能であり、そのために第一審被告会社の土地を損傷することはありえない状況にあつた。第一審被告会社が大金を支払つて訴外広原輝夫に道路及び周辺土地の整地作業を依頼したのも、豊島が道路等に砕石を敷いたままその後の工事を全然行つていなかつたからにほかならない。

しかるに、第一審被告会社は第一審原告会社の砕石回収を妨害してこれを不能にし、砕石を自己の利益のために使用し、第一審原告会社の損害の上に立つて利益を得たのであるから、当然不当利得返還の義務を負い、しかも悪意の受益者であるから、第一審原告会社の被つたすべての損害を賠償する責任がある。

(2)  仮に砕石の一部が第一審被告会社所有の土地に附合して砕石の所有権が第一審被告会社に帰していたとしても、第一審被告会社はそれによつて不当な利得を得、第一審原告会社が損失を被つたものである以上、第一審原告会社は第一審被告会社に対し、民法七〇三条により、附合した砕石代金の求償権を有する。

三  証拠関係〈省略〉

理由

一第一審被告会社が茨城県東茨城郡常北町の自社所有地に常北工場を新設するにあたり、工場整地及び公道から工場への私道舗装工事等を訴外豊島宗次に請け負わせたことは、当事者間に争いがない。

二〈証拠〉を総合すると、次のような事実を認めることができる。

(1)  訴外豊島は第一審原告会社との間で、前記請負工事に必要とする砕石(ずり石)の売買契約を結び、第一審原告会社は、昭和四九年一月二一日から同年六月一四日までの間二六回にわたつて、合計1473.5方米、代金一九二万六〇七五円相当の砕石を常北工場敷地や附設の私道敷附近に搬入して売り渡した(右のうち、昭和四九年五月二日までに搬入されたものが957.5方米、その代金一二二万九四七五円、同年六月一日から同月一四日までに搬入されたものが五一六方米、その代金六九万六六〇〇円であつた。)。

(2)  右砕石の代金は、搬入の翌月二五日ごとに支払期間四ケ月の約束手形を豊島が振り出す方法で支払う約束であつたが、同年六月一五日頃、豊島は、手形の最初の支払期日がまだ到来しないうちに、他の手形を不渡りにして倒産逐電してしまつた。

(3)  右砕石は、一部は工場敷地(建物周りの土地を含む。)の基礎工事に、大部分は公道から工場の間に設置する舗装私道の基礎工事に使用するため購入されたもので、常北工場の建物が建築され、機械が運び込まれて操業が開始された同年五月六日頃までには、工場建物の下地部分はコンクリートで舗装されていたが、工場周りの土地及び私道の部分は、豊島の逐電時まで未舗装のままであつた。しかし、豊島は、砕石の搬入を受けると、これを右舗装予定地に敷き、ブルドーザーで地均らしをして地盤を固める作業をし、一帯の土地は湿潤地で降雨等があると砕石が土中に沈み泥田状になりがちであつたため、とくに私道の部分については何度もこの作業を繰り返し、前記操業開始当時までには、工場機械を運び込むための大型トラツクやトレーラーの通行に堪える程度の通路にしており、以後その状態で工場の操業が続けられていた。そして、豊島の逐電当時、第一審原告会社から搬入された砕石のうちの一部は山積みのまま、あるいは地上に置かれていても地均らし等の作業を加えられないままの状態にあつたが、大部分は、前記のような作業によつて、すでに操業中の工場周りの土地や通路の地盤を固める用に供され、土地と混然一体となり、当該土地が果していた通路等としての機能を害することなく砕石を取り出すことは、不可能な状態になつていた。

(4)  第一審被告会社は豊島に対する請負代金の総額三六七〇万円を、昭和四八年七月二〇日から昭和四九年五月三一日までの間に八回に分けて、支払ずみであつた。

(5)  豊島の逐電後、これを知つた第一審原告会社の担当責任者矢田目春雄と矢田目充は、同年六月一九日、砕石の搬入先である第一審被告会社の常北工場に赴き、現場の責任者であつた瓜田惇に対して、工事現場の砕石は第一審原告会社が豊島に売つたものであるが、その代金を未払のまま豊島が倒産逐電したので、第一審被告会社が代つてその代金を支払つてくれなければ、砕石を回収する意思であるから、舗装工事をすることを待つて貰いたい旨を告げ、瓜田の取次ぎによつて、第一審被告会社代表者とも会つて、同趣旨の申入れをした。これに対し、第一審被告会社代表者は、豊島には請負代金全額が支払つてあるので砕石は現状のままにして話合いをしたい旨答え、その翌二〇日にも話合いが持たれたが結論に至らなかつた。その一方で、第一審被告会社は、同月一九日頃、豊島が完成しなかつた道路及び工場周りの土地の舗装工事を新たに訴外広原建設株式会社に請け負わせ、同社の手により、同月末頃までの間に、第一審原告会社から搬入されていた砕石を残らず使用して、舗装工事が完成されてしまつた。

以上のように認めることができる。

三右に認定した事実に基づいて考えるに、第一審原告会社が豊島に売り渡した砕石のうち、昭和四九年一月から同年五月二日までに搬入された957.5立方米については、それらが、常北工場の操業開始及びそれに伴う工場機械の運び込み等が行われた時期以前に、数次にわたつて搬入されていて、豊島の逐電時までには一ケ月半以上の時が経過していることから推して、右逐電時には、前叙のような、工場周りの土地や通路の地盤をなす土地に附着し、これを分離することは社会経済上著しく不相当な結果をもたらす状態に至つていたものと認めるのを相当とするので、附合により、砕石の所有権は土地の所有者である第一審被告会社に帰していたものということができる。

しかし、同年六月一日以降に搬入された砕石五一六立方米については、その搬入時が豊島が工事を中止して逐電した時期に接着しているだけに、それ以前の搬入分について右に判示したのと同様に、土地への附合が認められるような状態になつていたものとは、直ちには推断しがたく、むしろ、前叙のように、現場に搬入された砕石の一部は豊島の逐電当時未だ地均らし等の作業が加えられないままの状態であつたことが認められることに鑑みると、右六月になつてからの搬入分については附合を否定し、その所有権は、第一審原告会社からこれを買い受けた豊島のもとに残つていたものとみるのが相当である。

第一審被告は、請負代金全額が豊島に支払われていた以上、附合の成否に関係なく、遅くとも同人の工事中止時点で砕石全部の所有権が第一審被告会社に帰属した旨主張するが、右は、民法上土地との別個の不動産とされている(したがつて、土地への附合は生じない)建物の建築請負契約における法律関係に準じて考えようとするもので、発想の起点においてすでに本件の事案につき採りうるところではないことが明らかであり、本件において、附合の成否如何にかかわりなく砕石が第一審被告会社の所有に帰していたものとなすべき理由は、これを見出すことができない。

四前記二において認定した事実によれば、第一審原告会社側から第一審被告会社に対して砕石を回収したい旨申し入れた時点においては、第一審原告会社には豊島から代金の支払を受ける見込みはなく、同人が日ならずして債務不履行に陥ることは明白であつたので、第一審原告会社では豊島に対する契約を消滅させて砕石を回収する意向を固めていたのであり、第一審原告会社から右申入れを受け、その意向を知つた第一審被告会社としては、豊島の逐電に伴う後始末として、右申入れにかかる事実の真偽を確かめ、妥当な解決方法を見出すべき立場におかれたのに、右申入れを全く無視し、急拠第三者に未施行の舗装工事を請け負わせ、舗装を完成して懸案の砕石全部を一方的に取り込み、その回収を完全に不可能にしてしまつたのであることが明らかである。したがつて、前項後段に判示した砕石五一六立方米については、豊島との契約を解除したうえで復帰する所有権に基づきこれを回収しうべき権利が第一審原告会社にあつたのに、第一審被告会社は、少なくとも過失によつてこれを侵害し、砕石の回収を不能ならしめてその代金六九万六六〇〇円相当の損害を与えたものといわなければならないから、第一審被告会社は第一審原告会社に対しその賠償をなすべき責を免れない。

第一審被告は、民法五四五条一項但書を援用して、賠償責任を負わない旨主張するけれども、右五一六立方米の砕石に関する限り、第一審原告会社からの回収申入れのあつた当時、第一審被告会社には何らの権利も存しなかつたことは、如上の判示により明らかであるから、右主張は採りえない。

五これに反し前記三の前段において判示した砕石957.5立方米については、豊島の逐電当時、すでに附合により第一審被告会社の所有に帰していたものと認められるのであるから、第一審原告会社が豊島との間の契約を解除してもその所有権を取り戻しうる余地はなく、第一審被告会社のしたその後の行為を捉えて、不法行為の責を問うことはできない。

第一審原告は、第一審被告の不当利得返還義務をも取り上げ(但し、第一審原告の不当利得返還請求中前記三後段判示の砕石に関する部分は、前項四に判示した不法行為による損害賠償請求とその実質において重復するものであり、両請求は相互に予備的関係にあるものと認められるから、右損害賠償請求を認容すべきものと判断した以上、さらに不当利得の成否につき判断すべき限りでない。)、附合が成立しても不当利得返還義務を免れるいわれはないと主張するけれども、前叙のとおり、第一審被告会社は豊島との間の請負代金全額を支払ずみであり、前記三前段判示の砕石の附合は、豊島が第一審原告会社から買い受けた資材をもつてする請負契約の適法な履行の過程において生じたものであるから、右砕石の所有権が第一審被告会社に帰したことについては、不当利得の成立する余地もない。

六以上のとおりであるから、第一審原告の本訴請求は、第一審被告に対し、不法行為による損害賠償請求として、金六九万六六〇〇円及びこれに対する不法行為完成時(舗装工事が完了して砕石の取戻が不可能となつた昭和四九年六月末)後である昭和四六年七月一日から支払ずみに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において、理由があるものとして認容されるべく、その余は理由なきものとして排斥されなければならない。

よつて、第一審被告の控訴に基づき、原判決中第一審原告の請求を右に判示した額を超えて認容した部分を取り消したうえ右請求部分を排斥する趣旨において、原判決主文第一・二項を本判決主文第一項のとおり変更し、第一審原告の控訴は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条・九二条本文を適用のうえ、主文のとおり判決する。

(小林信次 横山長 三井哲夫)

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